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2022.03.30 鈴木 一之
クリス・ロック氏はどうしてる?
ウクライナ戦争に関する悲惨なニュースが相次いでいますが、それを除くと最近もっとも惹きつけられた話題がアカデミー賞授賞式です。受賞作品そのものよりも、ウィル・スミス氏が奥さんに対するジョークに激怒してクリス・ロック氏を舞台上でひっぱたいた例の一件です。
どんな時も暴力は許されません。ウィル・スミス氏の行為は刑事事件には発展しませんでしたが、アカデミーは正式に調査に乗り出します。スミス氏の今後の活動に少なくない影響が出ることでしょう。
一方で奥さんをそこまでしてかばうスミス氏の勇気に対して称賛の声もたくさん寄せられています。人の病状や容姿を話題に取り上げてはならないという、その人の生き方、価値観にもあらためてたくさんの言及があります。
私が興味を惹かれたのは、ひっぱたかれたクリス・ロック氏のほうです。アカデミー賞という世界最高の舞台の上で、大勢の超一流の招待客の前で超一流の人物から横っ面をひっぱたかれたロック氏が、その後の舞台進行をどうしたのか、混乱の収拾のつけ方です。映像ではそこまで見ることはできませんが非常に興味を惹かれます。
規模はまったく違いますが、私も似たような経験があります。20年以上も前のことですが、株式のトレードで世界最高の技術を持つ海外の大物トレーダーを招いて講演会が行われました。講演の後に設けられた30分間の質問タイムに、なぜか私がその代表質問者に選ばれたのです。
1か月以上前から準備して、大物トレーダー氏の著作を何作も読んで、最近のトレード技術の趨勢を別の本で学んで、質問事項を50項目くらい用意して当日の壇上に臨みました。壇上に上がり、通訳氏が同席するので私は日本語で質問し、大物トレーダー氏が英語で答えます。会場は2000人くらい入る大ホールでほぼ満席です。
用意した質問が半分くらい過ぎたころでしょうか。超人的なトレード技術の神髄を少しでも学びたいと思い、トレードの技法的な部分にフォーカスして質問していたのですが、突如として会場から大きな声で「鈴木さん、そんな質問はいいから、今の相場の動きをどう見ているか、それを聞いてよ!」と声がかかりました。
第1声は無視してそのまま質問を続けていたのですが、なんと複数の人から同じような声が次々と舞台に向かって寄せられたのです。2000人のうちのわずか数人、数十人だったのかもしれませんが、「そうだ、そうだ!」と追随して声がかかると、もう無視できません。壇上の私はひるみ、凍りつき、真っ白になって質問も止まり、完全に進行がストップしてしまいました。
1~2分そうしていたでしょうか。世慣れた大物トレーダー氏が通訳氏から状況を聞いて、すぐに会場からの「今の相場に対する見解」という質問に答えはじめました。そこから先はすべて会場にいらした聴衆者からの質問に切り替えて、半分くらい残っていた質問タイムは終わったのです。私は舞台上でそれらのすべてをひとりの聴衆としてながめていました。
舞台を降りたあとから反省点がたくさん出てきました。なぜあの場面で会場の声を聞き流せなかったのか。無視すればよかったのか。当意即妙の受け答えをして(できませんが)、1問だけ会場からの質問を受け入れたあとに元のペースに戻ってゆけばよかったのか。いまだにその時の光景を思い出します。
その点で大物トレーダー氏はやはり立派でした。どんな場面にも適応します。さすがですね。テレビや舞台で活躍する人は皆さん、本当に修羅場に慣れていらっしゃいます。私はいつまでたっても素人です。クリス・ロック氏のその後の受け答えが今も気になります。再現のきかない生放送や舞台は競争は激しく楽しくもありますが、地獄と隣り合わせでもあります。
(スズカズ)