Blog

ブログ

2022.03.23 鈴木 一之

株価は夜につくられる

株式市場において、言葉で説明できる部分というものはとても小さいと考えています。全体の2割も語られていないのではないかといつも思います。

証券会社に席を置いて株式のイロハを先輩から学んで(盗んで)いたころのことです。ある日、先輩が言った言葉が「株価は夜つくられる」というものでした。

午後3時に取引が終わり翌朝の9時に取引が始まります。その間に株価は決まるというものです。取引されていない時間が大切だ、ということだと理解していました。正解はありません。

当時は先物取引はまだありませんでした。インターネットももちろん存在せず、24時間世界のどこかで取引されている市場を見ていることなど、普通の人にはできない時代でした。牧歌的と言えば牧歌的ですが、心が休まる時間が存在した古き良き時代です。

株価は夜つくられる。取引されていない時間が重要で、それは考える時間です。深く広く考えて考えて、そして考えがまとまった人から翌日の9時に取引に参加します。その連続で株価は連続的に形成されてゆきます。

考えてみれば、世の中のほとんどの物事はそれと同じではないでしょうか。大事なことは隠れたところ、見えない部分に凝縮されています。表に出ている部分、目に見える部分はほんの一部、ほんの一瞬でしかありません。昨年のメジャーリーグMVPの大谷翔平選手は、オープン戦から打って投げて今年も活躍が楽しみです。その筋力と体力を作るためにこのオフシーズン、見えないところでどれだけ鍛えあげたことでしょう。

評判の大河ドラマ「鎌倉殿の13人」も鎌倉時代が舞台ですが、合戦の場面はさほど描かれません。ドラマの大半が合戦に至るまでの謀議、軍議、敵と味方の合従連衡、人たらしの手練手管、心理面、情け、そればかりです。

現在の企業価値も同じです。PBR(株価純資産倍率)で測られる資産価値などの目に見える尺度はさほど機能していません。それよりも人的能力、新機軸のアイディア、ネットワークの価値、モチベーションなど、目に見えないに高い価値が示されています。

「株価は夜つくられる」と言う人はもういないかもしれませんが、今は表現の仕方が変わっただけで、その教えは今も生きているような気がします。そうですよね、先輩。
(スズカズ)